「夢の中の女」(横溝正史)

金田一耕助の事件簿039

真相は意外すぎる方向から現れます

「夢の中の女」(横溝正史)
(「金田一耕助の冒険」)角川文庫

「金田一耕助の冒険」角川文庫

何者かに殺害された
通称「夢見る夢子さん」。
彼女は金田一の名を騙る
偽手紙によっておびき出され、
三年前の彼女の姉が
殺害された事件と同じ場所、
同じ服装で殺されたのだ。
三年前の事件の容疑者たちには
今回もアリバイがあり…。

横溝正史金田一耕助短篇作品集
「金田一耕助の冒険」に収録されている
一篇です。
なんとも風変わりな殺人事件の真相は、
やはり意外な結末を迎えます。
ある意味、禁じ手的な展開ですが、
それ故の面白さがあるのです。

【事件簿File-039「夢の中の女」】
〔事件発生〕
昭和33年7月(東京)
〔依頼人〕
該当なし(警察への捜査協力)
被害者と面識があったため、
等々力警部に呼び出されたことから
金田一が捜査に乗り出す。
なお、姉の殺人事件の捜査依頼を、
金田一は被害者から受けていた。
〔捜査関係者〕
西村警部補…所轄北沢署捜査主任。
等々力警部…警視庁捜査一課警部。
〔事件関係者〕
本多美禰子
…パチンコ「大勝利」の看板娘。
 通称・夢見る夢子さん。
 何者かに殺害される。
本多田鶴子
…美禰子の姉。
 三年前に殺害された「黒衣の歌手」。
猪場栄
…田鶴子のパトロン。会社社長。
猪場康子
…栄の妻。
 夫と田鶴子との関係を気に病む。
来島武彦…田鶴子のファン。学生。
花井達造…パチンコ「大勝利」経営者。
一枝…「大勝利」マダム。達造の妾。
静乃…田鶴子の絞殺死体を発見。

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本作品の味わいどころ①
金田一の名を騙った偽手紙!

今回、金田一が
等々力警部から呼び出されたのは、
捜査依頼ではなく「事情聴取」。
なぜなら
被害者・本多美禰子の遺体には、
金田一からの呼び出しの手紙が
あったからです。
もっとも等々力警部も金田一を
疑っているわけではありません。
その手紙は雑誌や新聞等の活字の
貼り合わせであり、如何にも
うさんくさい代物だったからです。
被害者は三年前の姉の殺人事件の
捜査を金田一に依頼していました。
その事実を知っている人間が、
金田一の名を騙って被害者を
おびき出したと考えられるのです。

この「活字の貼り合わせ」による
「紙の手紙での呼び出し」が、
いかにも昭和的です。
ワープロやメール、
SNSが浸透した現代では、
このような手法は
とれそうもありません。いや、
舞台となっている昭和30年代ですら、
奇異だったはずです。
なぜ金田一の住所も電話番号も
知っている美禰子が、
こうした手紙を信用したのか?
その謎が後半に明らかにされます。

本作品の味わいどころ②
姉の事件との関連はいかに?

その偽手紙の指示は、
三年前に姉の殺害された
黒のイブニング・ドレスを身にまとい、
蛍によるランタンを持参せよという、
やはり奇異なものなのです。
それによって容疑者を
自白させるというものなのですが。
姉の殺人事件の犯人を捕まえたいという
気持ちがあるとはいえ、
美禰子はなぜこのような
怪しげな提案に乗ったのか?
その謎も後半に明らかにされます。

本作品の味わいどころ③
犯人はやはり…、ところが…

三年前の事件の容疑者のうち、
来島も殺害されます。
金田一は等々力警部に、もう一人の
容疑者・猪場の監視を求めます。
やはり犯人は…、と思いきや、
最後はどんでん返しが控えています。

このあたりの、
読み手のミス・リードを誘う
手口の巧妙さが
横溝ミステリの持ち味です。
今回もまた一筋縄ではいきません。
真相は意外すぎる方向から現れます。

それにしても金田一に
パチンコの趣味があったとは驚きです。
事件の真相よりも、
ある意味こちらの方が意外でした。
相次ぐ事件と捜査依頼で、
自由な時間などなさそうなのですが、
そうでもなかったようです。
この事件については
「推理の勝利ではなく経験の勝利」と
金田一が述懐しているのですが、
パチンコの経験が「意外な結末」に
どう結びついているのか、
ぜひ読んで確かめてみてください。

〔本作品との関連作品〕
本作品にはやはり原形があり、
昭和31年に雑誌掲載された
「黒衣の女」がそれです。
残念ながら
単行本収録されていないため、
現在読むことはできません。
また、似たようなタイトルで
「黒衣の人」もあります。
こちらは過去の殺人事件と同じ場所で、
関係者が同じように殺害される、
女性が不思議な手紙で
殺人現場に誘い出される、という点で
共通点が見られます。

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〔本書収録作品一覧〕
「霧の中の女」
「洞の中の女」
「鏡の中の女」
「傘の中の女」
「鞄の中の女」
「夢の中の女」
「泥の中の女」
「柩の中の女」
「瞳の中の女」
「檻の中の女」
「赤の中の女」

(2022.11.4)

Enrique MeseguerによるPixabayからの画像
おどろおどろしい世界への入り口

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